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後ろの木々の茂みから何者かが動く音がした、
そう思った瞬間、いくつもの影が茂みから飛び出してきた。
暗闇に慣れはじめた姫の目に3人の影が映る。
みな布で顔を覆い、外套に身を包んでいる。
長身で鍛え上げられた影がひとつ、背が低くて丸い影がひとつ、
もうひとつはずいぶんほっそりしていた。
「逃げろ!逃げるんだ!」
少年は腰のナイフを抜くが長身の影は速度を落とさず、まっすぐに少年へ向かう。
他の二人は姫から距離を保ちながら円を描くように
姫の背後へ回りもうとしていた。
それを見た途端、さきほどまで少女だった姫の瞳から
あどけなさは消え、その目は民を守ろうとする王家の者の目になっていた。
姫は頭を巡らせて、すばやく状況を把握しようとする。
腰にナイフを持った男とドレスを着て動きづらい女。
にもかかわらず、彼には一人、自分には二人。
そのうえ二人は自分との距離を置きながら、背後へ回ろうとしている。
あきらかに相手を手強い者だと警戒している動きだ。
つまり知っているのだ。自分が秘術の力を持っていることを。
それが意味するのは、彼らがただの追いはぎではなく、
王家の者を狙った計画的な襲撃だということ。
それならば。彼らの狙いは!
姫は瞬時に判断すると、右の手を前へ突き出し
自分へ向かう二人ではなく、少年へ向かう影へ向けた。
暴君の腕輪には、風巻く巨人の力を生み出す秘術が込められている。
それを放てば解放された風の力によって、相手は巨人の一撃を受けたようになぎ倒されるだろう。
姫は手の平を広げ、指でぴったりと照準を合わせて心の内で秘文を描いた。
すでに手の内がバレているのなら!
その瞬間、空気を切り裂く轟音とともにあたりに衝撃が走る。
風が姫の周囲で渦を巻き、ドレスが舞い上がった。
彼らの狙いは少年を人質に取ることだ。
その前に目の前の男を仕留める。そのはずだった。
しかし、渦を巻く衝撃波は男をかすめるようにして後ろへと抜けていった。
!!? なぜ? 正確に狙ったはずなのに!?それにこの威力は!??
姫の頭に疑念がよぎる。腕輪はいつもと同じにもかかわらず、
放たれる力はいままでのものとは、桁違いに膨れ上がっていた。
その反動のために狙いがズレたのだ。
今の爆音で後ろの二人には、明らかに動揺が生まれた。
「いいいいぃ、ぃぃい」
「油断するんじゃないよ!念には念をいれろって言ったろ!?」
聞きづらい呻きと、甲高い女性の声が響く。
こんな荒事に女性が選ばれるのは稀なことだった。
きっと肉体的な不利を補う何かがあるに違いない。
姫は後ろの二人を警戒しながらも、先ほどとは逆の手を前に向け次弾を放とうとした。
しかし影はあれほどの衝撃が身体をかすめたにも関わらず
わずかに速度を落とすことすらなく、少年との距離をつめている。
それは修羅場をくぐり抜けた手練れの動きだった。
まずい。姫はズレを考慮して照準をあわせるが、すでに影と少年の距離は近い。
腕輪の力が少年を巻き込むことは確実だった。
死にはしないが、かなりの怪我を負うことは間違いない。
それでも。
これから起こる悲劇を冷徹に考え、姫は心を決める。
そして、秘文を頭で唱えようとしたそのとき。
星を見上げていた少年の笑顔が頭に浮かび、姫は一瞬だけ躊躇してしまった。
そのわずかな迷いが、姫の運命を大きく分けることになった。
男はすばやく少年の喉元に刃の切っ先を食い込まながら、その後ろへと滑り込んだ。
見れば少年の小さなナイフはその一瞬で地面に落とされ
男によって足で踏みつけられていた。
いくら数々の冒険をしてきたといっても彼は商人の息子だ。
荒事を生業にしている、しかも手練れの男に叶うはずはない。
姫は唇を噛んだ。これで腕輪の力を放つことが難しくなった。
もし使えば、その衝撃で刃の切っ先は喉元に突き刺さり
少年は死んでしまうかもしれないのだ。
「彼を離しなさい!」
姫は毅然とした声で叫んだ。
その声には相手を威圧するような、王族にふさわしい響きがあった。
少年は逃げろと何度も叫んでいるが、その目はそうは言ってないかに見える。
姫には逃げる気なんてまったくなかった。
彼は自分が一国の王女であることなんて知らない。
そんな彼を巻き込んだのは自分なのだ。
父の言うとおりだった。蛇のように自分を付け狙い
少年との会話を、息をひそめて聞いている者が街にいたのだ。
なんとか少年を助ける方法を頭の中でめぐらしていると
目の前の男が静かに言った。
「いいか。よく聞くんだ。俺達はイカれた人殺しじゃあない。
血を見るのは好きじゃあないんだ。殺しをするのは必要な時だけだ。
そして察しのとおり目的はコイツでもない。
俺達はお前を連れてくるように命じられているだけだ。
よく聞け、その手を降ろし、腕輪を外すんだ。両方ともな。」
鍛え上げられた空気を纏い、先ほど見せた躊躇の無い動き。
彼がリーダーに違いないと姫は感じた。
そして腕輪を外せと、はっきりと言った。
姫は自分の推測が正しかったことを知る。男は続けた。
「大人しくするなら、お前の身体を傷つけるような真似はしないと約束しよう。
そう言われているからな。迷っている時間はないぞ、まずはその手を降ろすんだ。
言う通りにするならコイツも解放する。約束だ。だが少しでも妙なそぶりを見せるなら」
そう言って、男は刃物に力を込める。
少年は苦しそうに喉を上げた。
「いいか。今から3つ数える。その間に腕輪を外さなければ、お前はこの
少年が血を吐いて死ぬのを見ることになる。いっておくが楽な死に方じゃあないぞ。
血が肺にはいり、呼吸ができなくなる。地面にのたうち回り、胸をかきむしりながら死んでいくだろう。
数えるぞ、いーち・・」
----------------------------------------------------------------------------------
選択肢は2つだけだった。
少年の喉に刃物が突き刺さるかもしれないが、
いちかばちか、腕輪の力を使って目の前の男を仕留める。
それとも。
迷う必要なんてなかった。自らの手で少年を殺しかねない。
そんなことができるわけがないのだ。もちろん男の言葉に従ったとしても、
そのあとに少年が殺される可能性はあったが、それに考えを巡らす時間はとてもなかった。
彼らにとって少年はカードの一手目にすぎない。
腕輪を外さなければ、戦いの邪魔にならないように
あっさりと殺される可能性が高いのだ。
姫は諦めるようにそっと腕を降ろした。
腕輪は自分以外のものに力づくで奪われないように、腕にぴったりとはまっている。
心の中で解除の秘文を唱えると、腕輪に切れ目ができて貝のように開き地面に転がった。
あたりに金属の音が響き渡る。
「よーし。いいぞ。そいつの代わりにいいものをくれてやろう。おい!」
男は油断なく、少年の喉に刃物を突き付けたまま、後ろの二人に声をかける。
姫が男から目を離さないままじっとしていると、
足元に馬が地面を踏みしめるような重い音が響いた。
それは鈍く銀色に光る2つの腕輪だった。
「それを腕にはめるんだ。怪しい動きをするなよ?」
姫がその場にしゃがみこんで腕輪を拾い上げると
それは思ったよりもずっしりと重くて分厚いものだった。
飾り気などまったくない、奴隷が身に着けるような手枷だった。
それには奇妙なことに、留め金などが一切ついておらず
接合部は刃物で切ったようにスッパリと切れている。
姫は驚いていた。その切れ目が馴染みがあるものだったからだ。
おそらく腕輪と同じように、これは秘術が込められた装具だ。
なぜ、こんなものに秘術が?
そんな疑問を持っていると、男の怒号が飛んだ。
迷っている暇はないようだった。
姫は立ち上がり、自らの手で奴隷のような手枷を
身に着ける屈辱に耐えながら、それを嵌めた。
するとカチリと噛み合う音がした後、接合面が吸い付くようにして閉じた。
切れ目が完全に消えて無くなっている。
それはずっしりと重く、ぴったりと肌に張りいて外れなくなった。
その重さは動きを封じるに充分で、体術の心得がある男であっても
こんな物つけられてしまったら戦うことは難しくなる。
もしこれが王家のものなら・・
男に気づかれないように手で押さえながら、
わずかな希望を込めて、解除の秘文を心の中で唱えてみる。
しかし腕輪には何の反応もなく、切れ目ができることはなかった。
もしかしたらこれを2度と外すことができないのではないか?
そんな恐ろしい予感が姫の心をよぎったが、男はかまわず続けた。
「よし、両手を背中で組め」
そう思った瞬間、いくつもの影が茂みから飛び出してきた。
暗闇に慣れはじめた姫の目に3人の影が映る。
みな布で顔を覆い、外套に身を包んでいる。
長身で鍛え上げられた影がひとつ、背が低くて丸い影がひとつ、
もうひとつはずいぶんほっそりしていた。
「逃げろ!逃げるんだ!」
少年は腰のナイフを抜くが長身の影は速度を落とさず、まっすぐに少年へ向かう。
他の二人は姫から距離を保ちながら円を描くように
姫の背後へ回りもうとしていた。
それを見た途端、さきほどまで少女だった姫の瞳から
あどけなさは消え、その目は民を守ろうとする王家の者の目になっていた。
姫は頭を巡らせて、すばやく状況を把握しようとする。
腰にナイフを持った男とドレスを着て動きづらい女。
にもかかわらず、彼には一人、自分には二人。
そのうえ二人は自分との距離を置きながら、背後へ回ろうとしている。
あきらかに相手を手強い者だと警戒している動きだ。
つまり知っているのだ。自分が秘術の力を持っていることを。
それが意味するのは、彼らがただの追いはぎではなく、
王家の者を狙った計画的な襲撃だということ。
それならば。彼らの狙いは!
姫は瞬時に判断すると、右の手を前へ突き出し
自分へ向かう二人ではなく、少年へ向かう影へ向けた。
暴君の腕輪には、風巻く巨人の力を生み出す秘術が込められている。
それを放てば解放された風の力によって、相手は巨人の一撃を受けたようになぎ倒されるだろう。
姫は手の平を広げ、指でぴったりと照準を合わせて心の内で秘文を描いた。
すでに手の内がバレているのなら!
その瞬間、空気を切り裂く轟音とともにあたりに衝撃が走る。
風が姫の周囲で渦を巻き、ドレスが舞い上がった。
彼らの狙いは少年を人質に取ることだ。
その前に目の前の男を仕留める。そのはずだった。
しかし、渦を巻く衝撃波は男をかすめるようにして後ろへと抜けていった。
!!? なぜ? 正確に狙ったはずなのに!?それにこの威力は!??
姫の頭に疑念がよぎる。腕輪はいつもと同じにもかかわらず、
放たれる力はいままでのものとは、桁違いに膨れ上がっていた。
その反動のために狙いがズレたのだ。
今の爆音で後ろの二人には、明らかに動揺が生まれた。
「いいいいぃ、ぃぃい」
「油断するんじゃないよ!念には念をいれろって言ったろ!?」
聞きづらい呻きと、甲高い女性の声が響く。
こんな荒事に女性が選ばれるのは稀なことだった。
きっと肉体的な不利を補う何かがあるに違いない。
姫は後ろの二人を警戒しながらも、先ほどとは逆の手を前に向け次弾を放とうとした。
しかし影はあれほどの衝撃が身体をかすめたにも関わらず
わずかに速度を落とすことすらなく、少年との距離をつめている。
それは修羅場をくぐり抜けた手練れの動きだった。
まずい。姫はズレを考慮して照準をあわせるが、すでに影と少年の距離は近い。
腕輪の力が少年を巻き込むことは確実だった。
死にはしないが、かなりの怪我を負うことは間違いない。
それでも。
これから起こる悲劇を冷徹に考え、姫は心を決める。
そして、秘文を頭で唱えようとしたそのとき。
星を見上げていた少年の笑顔が頭に浮かび、姫は一瞬だけ躊躇してしまった。
そのわずかな迷いが、姫の運命を大きく分けることになった。
男はすばやく少年の喉元に刃の切っ先を食い込まながら、その後ろへと滑り込んだ。
見れば少年の小さなナイフはその一瞬で地面に落とされ
男によって足で踏みつけられていた。
いくら数々の冒険をしてきたといっても彼は商人の息子だ。
荒事を生業にしている、しかも手練れの男に叶うはずはない。
姫は唇を噛んだ。これで腕輪の力を放つことが難しくなった。
もし使えば、その衝撃で刃の切っ先は喉元に突き刺さり
少年は死んでしまうかもしれないのだ。
「彼を離しなさい!」
姫は毅然とした声で叫んだ。
その声には相手を威圧するような、王族にふさわしい響きがあった。
少年は逃げろと何度も叫んでいるが、その目はそうは言ってないかに見える。
姫には逃げる気なんてまったくなかった。
彼は自分が一国の王女であることなんて知らない。
そんな彼を巻き込んだのは自分なのだ。
父の言うとおりだった。蛇のように自分を付け狙い
少年との会話を、息をひそめて聞いている者が街にいたのだ。
なんとか少年を助ける方法を頭の中でめぐらしていると
目の前の男が静かに言った。
「いいか。よく聞くんだ。俺達はイカれた人殺しじゃあない。
血を見るのは好きじゃあないんだ。殺しをするのは必要な時だけだ。
そして察しのとおり目的はコイツでもない。
俺達はお前を連れてくるように命じられているだけだ。
よく聞け、その手を降ろし、腕輪を外すんだ。両方ともな。」
鍛え上げられた空気を纏い、先ほど見せた躊躇の無い動き。
彼がリーダーに違いないと姫は感じた。
そして腕輪を外せと、はっきりと言った。
姫は自分の推測が正しかったことを知る。男は続けた。
「大人しくするなら、お前の身体を傷つけるような真似はしないと約束しよう。
そう言われているからな。迷っている時間はないぞ、まずはその手を降ろすんだ。
言う通りにするならコイツも解放する。約束だ。だが少しでも妙なそぶりを見せるなら」
そう言って、男は刃物に力を込める。
少年は苦しそうに喉を上げた。
「いいか。今から3つ数える。その間に腕輪を外さなければ、お前はこの
少年が血を吐いて死ぬのを見ることになる。いっておくが楽な死に方じゃあないぞ。
血が肺にはいり、呼吸ができなくなる。地面にのたうち回り、胸をかきむしりながら死んでいくだろう。
数えるぞ、いーち・・」
----------------------------------------------------------------------------------
選択肢は2つだけだった。
少年の喉に刃物が突き刺さるかもしれないが、
いちかばちか、腕輪の力を使って目の前の男を仕留める。
それとも。
迷う必要なんてなかった。自らの手で少年を殺しかねない。
そんなことができるわけがないのだ。もちろん男の言葉に従ったとしても、
そのあとに少年が殺される可能性はあったが、それに考えを巡らす時間はとてもなかった。
彼らにとって少年はカードの一手目にすぎない。
腕輪を外さなければ、戦いの邪魔にならないように
あっさりと殺される可能性が高いのだ。
姫は諦めるようにそっと腕を降ろした。
腕輪は自分以外のものに力づくで奪われないように、腕にぴったりとはまっている。
心の中で解除の秘文を唱えると、腕輪に切れ目ができて貝のように開き地面に転がった。
あたりに金属の音が響き渡る。
「よーし。いいぞ。そいつの代わりにいいものをくれてやろう。おい!」
男は油断なく、少年の喉に刃物を突き付けたまま、後ろの二人に声をかける。
姫が男から目を離さないままじっとしていると、
足元に馬が地面を踏みしめるような重い音が響いた。
それは鈍く銀色に光る2つの腕輪だった。
「それを腕にはめるんだ。怪しい動きをするなよ?」
姫がその場にしゃがみこんで腕輪を拾い上げると
それは思ったよりもずっしりと重くて分厚いものだった。
飾り気などまったくない、奴隷が身に着けるような手枷だった。
それには奇妙なことに、留め金などが一切ついておらず
接合部は刃物で切ったようにスッパリと切れている。
姫は驚いていた。その切れ目が馴染みがあるものだったからだ。
おそらく腕輪と同じように、これは秘術が込められた装具だ。
なぜ、こんなものに秘術が?
そんな疑問を持っていると、男の怒号が飛んだ。
迷っている暇はないようだった。
姫は立ち上がり、自らの手で奴隷のような手枷を
身に着ける屈辱に耐えながら、それを嵌めた。
するとカチリと噛み合う音がした後、接合面が吸い付くようにして閉じた。
切れ目が完全に消えて無くなっている。
それはずっしりと重く、ぴったりと肌に張りいて外れなくなった。
その重さは動きを封じるに充分で、体術の心得がある男であっても
こんな物つけられてしまったら戦うことは難しくなる。
もしこれが王家のものなら・・
男に気づかれないように手で押さえながら、
わずかな希望を込めて、解除の秘文を心の中で唱えてみる。
しかし腕輪には何の反応もなく、切れ目ができることはなかった。
もしかしたらこれを2度と外すことができないのではないか?
そんな恐ろしい予感が姫の心をよぎったが、男はかまわず続けた。
「よし、両手を背中で組め」
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