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重罪人のように厳しい拘束を受けた屈辱に姫はじっと耐えていた。
「辛いかもしれないが悪く思うなよ?
おまえの力は、何をするかわからない手負いの獣みたいなものだ。
これでもまだ危険だと考えてるぐらいだ。」
「獣ですって!?」
侮辱の言葉を受け、姫は男を睨みつける。
「褒めたつもりなんだがな。
お前は手負いの獣の恐ろしさを知らんだろう?」
そう言いながら、男はようやく少年から手を離した。
彼は地面の上に倒れこんだが、呼吸はしているらしく命に別状はないようだ。
「だが、人が獣を扱うとき、どうするかは知っているな?」
再び、後ろから女が何かを放り投げた。
男はそれを片手で掴み取る。
それを見て姫は目を見開き、すぐにその顔は
嫌悪と恐れが入り混じったものに変わった。
「そんなものを・・・私につけようというの!?」
「抵抗しても構わんぞ。できるのならな。」
男が持っているものは首輪だった。
それも大型の野獣につけるような分厚さだ。
そして手枷と同様に留め金のようなものはなく、
一度嵌められれば容易に外すことができないのは間違いない。
男は首輪を見せつけるように振る。
「念のため言っておくが、自害すれば少年は死ぬことになるぞ?」
姫は呻いた。
この場から逃れる方法はたしかにある。
しかしそれは自分だけが助かる方法だった。
耳飾りに秘められている力は戦いには使えない。
孤独の耳飾りに秘められているのは不可視の秘術なのだ。
使えば肉体と衣服はこの世から消え、誰にも触れられない存在になる。
危機から逃れる強力な力だが、そのぶん戒めも多かった。
まるで幽霊のようになるが、物を通り抜けられるわけではない。
それどころか扉ひとつ開けられない無力な存在になってしまう。
そしてその姿から自在に元の姿に戻れるわけでもなかった。
元に戻るにはあらかじめ定めておいた「灯」が必要になる。
灯に触れない限り2度と元には戻れない。
そうなれば、水を飲むことすらできずに数日で餓死するだろう。
そして、灯は王家の城の正門だった。
耳飾りは帰巣の力なのだ。
姫は倒れている少年を見る。
もし自分が目の前で消えたら、彼らが次に何をするかは容易に想像できる。
少年の命と自分の誇り、どちらを守るべきなのか。
姫はぐっと息を飲みこむと、獣のように扱われる覚悟を決めた。
男が近づいてくる。右耳の装具を見られないように
姫は顔をそらすようにして俯く。娼館の奴隷のように
首輪をされると思うと恥辱に足が震える。
誇りを失うことなく、その場に立っていたつもりだったが
気づかないうちに足は一歩引いていた。
「抵抗しないのだな。 」
「こんな姿にされて・・・できるわけがないでしょう。」
そう言って背中に拘束されている両手を軋ませる。
手枷はびくともしない。
「そうか。まあいいだろう。」
男は姫の顎を荒々しく掴みあげて喉を晒すると、そこに首輪を巻きつけた。
実際につけてみると、首輪は姫の首をほとんど覆うほどだった。
周囲には何かを差し込むような穴がいくつか空いている。
金属の冷たい感触が肌にしみこんで来て姫は震えた。
姫は首輪が閉じる瞬間を見ることに耐えられず、ぎゅっと目を瞑った。
カチッとした音に続いて、弦をなぞるような高い音が耳に響く。
「うっ く!」
苦しさに声が漏れる。
そっと目を開けたとき、首輪にあった繋ぎ目は完全に消えていた。
首輪は狭く、なんとか呼吸ができるほどで
常に姫の首を締め付けるかのように食い込んでいた。
----------------------------------------------------------------
少女らしいドレスに、奴隷の首輪を身に着けた姫の姿は
背徳的な雰囲気があった。
そして首輪をされてしまった姫からは、先ほどまでの相手を威圧する
ような王威は薄れていた。
その内側からは奴隷らしい怯えと、少女の恥じらいが顔を出している。
恥ずかしさから目をそらすために俯くと、首輪が食い込んで呼吸が一層苦しくなる。
姫は顔を上げたままでいることを強いられ、屈辱に耐えていた。
常に首を絞められているために、頭がだんだんとぼんやりしていく。
顔は熱を帯びはじめ、姫は少しずつ思考力を奪われていった。
「ぅ・・うう」
苦しい呻きが口から洩れる。
「これでお前はもう王女ではない。犬や馬と同じだ。
今後はそのように扱われることを覚えておけ。」
姫はそれには何も答えられず、眉根をゆがめて屈辱の言葉に耐えていた。
「ようやく、生娘らしさが出てきたな。」
男はそう言って革紐を取り出した。それを姫の首輪につなぐ気なのだ。
まさか、そこまでの扱いをされると思ってなかったのだろう。
姫は反射的に逃れようと慌てて後ずさったが、
男は首輪に指をかけて地面に引きおろした。
手でバランスがとれず、姫は崩れ落ちるようにひざまづいた。
男を見上げる格好になり、自分をひざまずかせている男を
睨みつけたが、その目にはうっすらと涙が滲んでいて
さきほどまでの気迫はすでになかった。
男はゆっくりとした動きで革紐を首輪につないだ。
「くっ。うっ!」
ある程度の覚悟をしてたとは言え
犬のように紐をつけられるその扱いは王家の人間として耐え難かった。
「獣同然に扱うと言ったはずだ。」
男は革紐を繋ぎ終わるとそれを引きあげる。
「あうっ!っ!」
首が締まり姫は慌てて立ち上がった。
もはや男の意のままだった。無理やりに跪かされて、
今度は強引に立ちあがるように強制されたのだ。
首輪というものがこれほど人を無力にさせ、
みじめな気持ちにさせるのだと知って姫はその恥辱に唇を震わせる。
男はさきほど姫が外した腕輪を拾い上げ、女に放り投げる。
そして合図を送ると、彼らが現れた木々の暗がりへと歩き始めた。
鍛え上げた男の力にかなうはずが無いことはわかっているが、
それでも姫には、わずかな誇りが残されていた。
先ほど易々と男にひざまづかされた悔しさが沸き起こり、
今度こそ、足を踏ん張って耐えようとした。
しかしその瞬間、姫の首をまるで雷のような衝撃が貫いた。
「あっぐぅう!」
姫はたまらず叫び声を上げた。
何かの秘術がこめられているのか、
主に遅れを取ったりすれば、罰を受ける残酷な仕掛けが施されてる。
この首輪が人よりもはるかに大きな野獣を
躾けるためのものであることは確かだった。
なんて・・ことをっ。こんなものをっ、わたしに・・!
その強烈な痛みに堪えきれず姫は足を動かして男についていく。
あまりの悔しさにその目からは涙がにじみ出た。
手が使えないために、足元がおぼつかなかった。
姫は小さな頃から優雅に歩くように厳しく教えられてきたが
王女にふさわしい立ち振舞いで歩くことは、もうできなかった。
しかし身体に染み付いた動きは簡単には変えられず、足がもつれそうになる。
それでも男が足を止めるようなことはなく、姫は再び罰を受ける。
「いぅぐぅ!」
姫は必死になって、手を拘束されたままの歩き方を探ろうとしていたが
それはまるで、奴隷の作法を懸命に覚えようとしているようだった。
木々の暗がりに連れ去られる前に、姫は丘の上を振り返った。
そこには気を失ったままの少年が倒れている。
さっきまで彼と星を眺めて笑っていたのに・・。
その時間が嘘のように感じられた。
そして堪えていた涙が、とうとうその瞳から零れ落ちる。
この星空の下へ来たときは、大好きな少年の手を握りしめながら
足跡を追いかけた無垢な少女は、
今は両手に手枷を嵌められ、首輪に繋がれた惨めな姿で
見知らぬ男に遅れまいと必死の思いでその後を追いかける。
やがて丘の向こうに見えていた輝く王都は
日が沈むように闇の中へと消えていった。
(一章 完)
「辛いかもしれないが悪く思うなよ?
おまえの力は、何をするかわからない手負いの獣みたいなものだ。
これでもまだ危険だと考えてるぐらいだ。」
「獣ですって!?」
侮辱の言葉を受け、姫は男を睨みつける。
「褒めたつもりなんだがな。
お前は手負いの獣の恐ろしさを知らんだろう?」
そう言いながら、男はようやく少年から手を離した。
彼は地面の上に倒れこんだが、呼吸はしているらしく命に別状はないようだ。
「だが、人が獣を扱うとき、どうするかは知っているな?」
再び、後ろから女が何かを放り投げた。
男はそれを片手で掴み取る。
それを見て姫は目を見開き、すぐにその顔は
嫌悪と恐れが入り混じったものに変わった。
「そんなものを・・・私につけようというの!?」
「抵抗しても構わんぞ。できるのならな。」
男が持っているものは首輪だった。
それも大型の野獣につけるような分厚さだ。
そして手枷と同様に留め金のようなものはなく、
一度嵌められれば容易に外すことができないのは間違いない。
男は首輪を見せつけるように振る。
「念のため言っておくが、自害すれば少年は死ぬことになるぞ?」
姫は呻いた。
この場から逃れる方法はたしかにある。
しかしそれは自分だけが助かる方法だった。
耳飾りに秘められている力は戦いには使えない。
孤独の耳飾りに秘められているのは不可視の秘術なのだ。
使えば肉体と衣服はこの世から消え、誰にも触れられない存在になる。
危機から逃れる強力な力だが、そのぶん戒めも多かった。
まるで幽霊のようになるが、物を通り抜けられるわけではない。
それどころか扉ひとつ開けられない無力な存在になってしまう。
そしてその姿から自在に元の姿に戻れるわけでもなかった。
元に戻るにはあらかじめ定めておいた「灯」が必要になる。
灯に触れない限り2度と元には戻れない。
そうなれば、水を飲むことすらできずに数日で餓死するだろう。
そして、灯は王家の城の正門だった。
耳飾りは帰巣の力なのだ。
姫は倒れている少年を見る。
もし自分が目の前で消えたら、彼らが次に何をするかは容易に想像できる。
少年の命と自分の誇り、どちらを守るべきなのか。
姫はぐっと息を飲みこむと、獣のように扱われる覚悟を決めた。
男が近づいてくる。右耳の装具を見られないように
姫は顔をそらすようにして俯く。娼館の奴隷のように
首輪をされると思うと恥辱に足が震える。
誇りを失うことなく、その場に立っていたつもりだったが
気づかないうちに足は一歩引いていた。
「抵抗しないのだな。 」
「こんな姿にされて・・・できるわけがないでしょう。」
そう言って背中に拘束されている両手を軋ませる。
手枷はびくともしない。
「そうか。まあいいだろう。」
男は姫の顎を荒々しく掴みあげて喉を晒すると、そこに首輪を巻きつけた。
実際につけてみると、首輪は姫の首をほとんど覆うほどだった。
周囲には何かを差し込むような穴がいくつか空いている。
金属の冷たい感触が肌にしみこんで来て姫は震えた。
姫は首輪が閉じる瞬間を見ることに耐えられず、ぎゅっと目を瞑った。
カチッとした音に続いて、弦をなぞるような高い音が耳に響く。
「うっ く!」
苦しさに声が漏れる。
そっと目を開けたとき、首輪にあった繋ぎ目は完全に消えていた。
首輪は狭く、なんとか呼吸ができるほどで
常に姫の首を締め付けるかのように食い込んでいた。
----------------------------------------------------------------
少女らしいドレスに、奴隷の首輪を身に着けた姫の姿は
背徳的な雰囲気があった。
そして首輪をされてしまった姫からは、先ほどまでの相手を威圧する
ような王威は薄れていた。
その内側からは奴隷らしい怯えと、少女の恥じらいが顔を出している。
恥ずかしさから目をそらすために俯くと、首輪が食い込んで呼吸が一層苦しくなる。
姫は顔を上げたままでいることを強いられ、屈辱に耐えていた。
常に首を絞められているために、頭がだんだんとぼんやりしていく。
顔は熱を帯びはじめ、姫は少しずつ思考力を奪われていった。
「ぅ・・うう」
苦しい呻きが口から洩れる。
「これでお前はもう王女ではない。犬や馬と同じだ。
今後はそのように扱われることを覚えておけ。」
姫はそれには何も答えられず、眉根をゆがめて屈辱の言葉に耐えていた。
「ようやく、生娘らしさが出てきたな。」
男はそう言って革紐を取り出した。それを姫の首輪につなぐ気なのだ。
まさか、そこまでの扱いをされると思ってなかったのだろう。
姫は反射的に逃れようと慌てて後ずさったが、
男は首輪に指をかけて地面に引きおろした。
手でバランスがとれず、姫は崩れ落ちるようにひざまづいた。
男を見上げる格好になり、自分をひざまずかせている男を
睨みつけたが、その目にはうっすらと涙が滲んでいて
さきほどまでの気迫はすでになかった。
男はゆっくりとした動きで革紐を首輪につないだ。
「くっ。うっ!」
ある程度の覚悟をしてたとは言え
犬のように紐をつけられるその扱いは王家の人間として耐え難かった。
「獣同然に扱うと言ったはずだ。」
男は革紐を繋ぎ終わるとそれを引きあげる。
「あうっ!っ!」
首が締まり姫は慌てて立ち上がった。
もはや男の意のままだった。無理やりに跪かされて、
今度は強引に立ちあがるように強制されたのだ。
首輪というものがこれほど人を無力にさせ、
みじめな気持ちにさせるのだと知って姫はその恥辱に唇を震わせる。
男はさきほど姫が外した腕輪を拾い上げ、女に放り投げる。
そして合図を送ると、彼らが現れた木々の暗がりへと歩き始めた。
鍛え上げた男の力にかなうはずが無いことはわかっているが、
それでも姫には、わずかな誇りが残されていた。
先ほど易々と男にひざまづかされた悔しさが沸き起こり、
今度こそ、足を踏ん張って耐えようとした。
しかしその瞬間、姫の首をまるで雷のような衝撃が貫いた。
「あっぐぅう!」
姫はたまらず叫び声を上げた。
何かの秘術がこめられているのか、
主に遅れを取ったりすれば、罰を受ける残酷な仕掛けが施されてる。
この首輪が人よりもはるかに大きな野獣を
躾けるためのものであることは確かだった。
なんて・・ことをっ。こんなものをっ、わたしに・・!
その強烈な痛みに堪えきれず姫は足を動かして男についていく。
あまりの悔しさにその目からは涙がにじみ出た。
手が使えないために、足元がおぼつかなかった。
姫は小さな頃から優雅に歩くように厳しく教えられてきたが
王女にふさわしい立ち振舞いで歩くことは、もうできなかった。
しかし身体に染み付いた動きは簡単には変えられず、足がもつれそうになる。
それでも男が足を止めるようなことはなく、姫は再び罰を受ける。
「いぅぐぅ!」
姫は必死になって、手を拘束されたままの歩き方を探ろうとしていたが
それはまるで、奴隷の作法を懸命に覚えようとしているようだった。
木々の暗がりに連れ去られる前に、姫は丘の上を振り返った。
そこには気を失ったままの少年が倒れている。
さっきまで彼と星を眺めて笑っていたのに・・。
その時間が嘘のように感じられた。
そして堪えていた涙が、とうとうその瞳から零れ落ちる。
この星空の下へ来たときは、大好きな少年の手を握りしめながら
足跡を追いかけた無垢な少女は、
今は両手に手枷を嵌められ、首輪に繋がれた惨めな姿で
見知らぬ男に遅れまいと必死の思いでその後を追いかける。
やがて丘の向こうに見えていた輝く王都は
日が沈むように闇の中へと消えていった。
(一章 完)
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